電子タバコ用充填物事件(知財高判令和7年4月10日)


2025年4月10日、知的財産高等裁判所は「電子タバコ用充填物及び電子タバコカートリッジ」事件について判決を下しました。特許権侵害訴訟の分野で「切込み」の技術的な意味が争点となった注目の事案です。

目次

事件の概要

  • 発明の内容
    本件特許(特許第6815560号)は、電子タバコの充填物に「切込み」を設けることで、充填物の脱落防止や吸い心地の安定化を図るというものです。特許請求の範囲では「シート状部材の長手方向に沿って、貫通しない深さで切込みが形成されている」ことが要件となっています。
  • 争点
    被告製品にも縦方向の筋状部分が存在していましたが、これは刃物で切ったものではなく、捲縮加工(シートを縮める工程)で自然にできたものでした。原告はこれも「切込み」に該当すると主張しました。
  • 裁判所の判断
    裁判所は、「切込み」とは刃物を用いて人為的・能動的に形成された切り目・切れ目を意味すると明確に判断しました。捲縮加工によって自然にできた筋状部分は「切込み」には当たらないとし、被告製品は特許の構成要件を充足しないと結論付けました。その結果、原告の特許権侵害の主張は認められませんでした。

感想

今回の判決は、特許請求の範囲の文言解釈がいかに厳格かつ技術的であるかを改めて示したものです。特許明細書の記載や発明の本質を丁寧に読み解き、技術的な用語の意味を厳密に判断する姿勢が鮮明に表れています。

特に印象的だったのは、「切込み」という一見シンプルな言葉でも、“どんな加工方法で生じたものか”が特許の技術的範囲を大きく左右するという点です。製品開発や特許取得の現場では、日常語と技術用語のズレを意識し、明細書や請求項の記載に細心の注意を払う必要があると痛感しました。

電子タバコのような新しい分野では、加工方法や構造の違いが特許侵害の成否を分けることも多く、今後も類似の争いが続くことが予想されます。知財実務に携わる立場として、今後の技術進化と判例の動向に引き続き注目していきたいと思います。

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